てつじぃの日記

並河哲次 和歌山県新宮市議会議員 / Youth Library えんがわ館長

ノンフィクション短編小説「S市のリアル」

人口31000人のS市では、市の活性化の目玉として、「文化複合施設」の建設が計画されている。
建設費は40億円と言われていた・・・

老朽化した市民ホールの建て替え、老朽化してかつ規模の小さい図書館の建て替え、そして観光客の誘致を狙う「熊野学センター」の新設・・・この3つをセットにした施設だ。
そして時を同じくして、老朽化してかつ耐震性も満たしていない市庁舎の建て替えが進もうとしている。こちらは、31億円。


どちらも、S市ではめったとない、ビッグプロジェクトだ。
もちろん、借金もする。


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【2014年3月X日、S市、3月定例議会
文化複合施設建設に向けて、2億円の設計費が、議会に提出された。
事業費、建物の面積、管理運営の計画、利用が始まってからの事業採算性、
そして、建設費や維持費が市全体の財政に与える影響・・・
すべてがはっきりとしないまま、である。

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N議員の質問:文化複合施設の建設と、市庁舎の建設が同一の時期に重なり、市の財政負担が集中していますよね。
今同じタイミングで造ると、50年か60年先に老朽化して、また同じように財政的な負担が集中するときが来るんですよね。
恐らくその時は、今よりも人口が減っている。この、何十年か先の財政負担についてはどう考えているんですか?

教育長の返答:無責任なようですけど、50年後、60年後、行政形態もどうなっているのかわかりませんので、その時はその時に知恵を絞っていただいて対応せざるをえんおかなと思います。

市長の返答:50年後、60年後の質問に対してですと、先ほど教育長も言ったように行政がどうなっているのかわからんということもありますし、また、もっと今より財政が豊かになっている可能性もあります。
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ここ最近、工事費が高騰している中でも、費用は40億円を超えないようにするか、という問いに対して、市長は「超えないようにする」と明言。 

それ以外の多くは不透明なままだったが、N議員の抵抗も虚しく、議会は2億円の設計費を承認した。


【2014年5月X日】
市長は、「S市にふさわしい文化複合施設にするためには、40億円以内に収めるのは不可能」と、3月時点での議会への説明を早くも撤回。
それでも複合施設の建設自体は、進めていく、としている。

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文化複合施設に40億円かける場合の市全体の財政シミュレーションは、昨年2013年の5月に市から示されている。このシミュレーションで、市が将来的に「良し」とする財政指標の値ギリギリいっぱいだった。

ということは、40億円を超える場合、単純に考えると、「良し」とする財政指標の値を超えることになる。市庁舎の建設費が昨年の時点より3億円ほど増えることになっていることも考えると、なおさらだ。
市長は、国の補助金を獲得したり、他の予算を削ってでも、文化複合施設を建てるとしている。(市から提示された他市町の例を参考にすると、最低でも48億円はかかると推測することができる。)


財政的な裏付けは、現在も示されていない。
N議員は、直近での財政シミュレーションの提示を求めているが、提示の時期は明言されていない。
建設予定地にある、元小学校の校舎は、まだ20年は耐用年数があると考えられるが、取り壊される予定だ。


26年後の2040年には、人口が現在の31000人から17000人台になる可能性もあるS市。
本当に今考えている規模のものが必要なのか?
将来の一人一人の負担はどのくらいになるのか?
建物の「中身」はどのようなものが良いのか? 


施設ができれば、使えるようになるのも、私たちです。
同時に、負担をしていくのも、私たち、そして子ども、孫の世代です。
それが現実です。 

でも、市役所と議会の中では、「こういうものができたらいい、使えたらいい!」という話はあっても、「負担は実際問題どうなるのか?将来的にはどうか?」という議論はほぼありません。

これが、S市のリアルな今です。
S市のみなさん、どうか関心を持ってください。お願いします。

S市以外のみなさん、あなたの街は、どうですか?




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N議員=並河哲次